令和元年長野市台風19号におけるアスベスト対策 9/3長野市長沼でシンポジウム開催

アスベストリスクコミュニケーションプロジェクト活動

長野市台風19号災害アスベスト対策 調査とシンポジウムに参加して 

斎藤紀代美(浦和青年の家跡地利用を考える会)

9月2日、3日に「アスベストリスクコミュニケーションプロジェクト」のメンバーは、3年前の台風19号の集中豪雨による千曲川決壊で浸水被害が発生した長野市長沼地区を訪ね現地視察。住民代表、長野市関係者からのヒヤリング、及びシンポジウムに主催者側として参加した。

 1.長野市水害とは

2019年10月12日、台風19号の大豪雨により千曲川上流の降水量は300mmを超え、13日未明、水位は上昇し長野市長沼地区では堤防を越え、6時半に穂保地区の堤防が70mにわたり決壊。氾濫した濁流はこれらの地域を襲い、住宅の流失、リンゴ畑などの農地に甚大な被害をもたらした。市北部(長沼,豊野,古里)の浸水面積は約934 haに及び,1~4mの浸水被害が発生した。全壊1,034棟,半壊360棟など計1,971棟。死者 15人。広域の浸水の映像や新幹線120車両浸水のTVニュースに衝撃を受けた。

2.被災・長沼地区見て歩く(西澤さんの案内)

(1)戒めの指標 妙笑寺の寺柱

長野駅から私たち7名は車で、まだ実の青いリンゴ畑を見ながらリンゴ街道を北上し、長野市長沼支所に来た。長野県アスベスト対策センターの鵜飼照喜代表、喜多英之さん、布目裕喜雄長野市議、被災住民代表の西澤清文さん(長沼住民自治協議会会長)らと落ち合い、西澤さんの案内で現地を視ることになった。目の先に堤防が見え、流失した神社の樹の間を指さし、「あの辺りが決壊箇所です」。「なぜ決壊したんですか?」の問に、「あの辺に長沼城があり、砂利が多く強度が弱かったという説があります」と鵜飼さん。長沼城址の発掘調査は今も行われていた。取材のSBC信越放送クルーも同行した。堤防は1mを嵩上げし、コンクリート造の強固な堤にし、土で覆って今は緑の草が茂っていた。土手を昇る途中から雨が降り出した。この日の千曲川の水量は少ない。「対岸の堤までは1㎞ある。下流の狭窄部は240メール位で『瀬上がり』と言い、流れが戻ってきて水位が上昇し溢れた」という。被災住宅の建替えが進むが、土手下では濁流が家の中を突き抜け、窓枠がシートで塞がれたままの家があった。「住人は屋根からヘリコプターで救助された」と西澤さんは話した。土手を下って妙笑寺へ。境内には寺柱を使い、過去の水害を記した「千曲川大洪水水位標」が建っていた。最高水位は寛保2(1742)年8月2日 3.3m、2番目が今回の水害で2.5m。戒めの標でもある。長屋門の白壁にも水位の痕跡があった。

(2)災害廃棄物の自主的仮置き場・赤沼公園へ 

災害ゴミ仮置き場だったとは想像できないほど今は芝生で整備され、広々とした赤沼公園に案内された。ゴミを6分類に分別しエリアを決めた。自宅も被害を受けて片付かない中、西澤さんらは仮置き場の管理に奔走した。「この場所は家電製品」「ここは可燃物」とまわりながら説明する。「濡れた畳は重たいですよ。一人では持てません」、「不法投棄する者もいました」「ここの廃棄物撤去後、危険物が残るといけないので表土を全部削ってもらいました」と苦労を語った。自治協議会が行政の仮置き場を待たず、勝手仮置き場を設置、自主管理するのは初めて聞く話で驚くばかりだった。

3.関係者からのヒヤリング

午後3時から長沼支所で関係者からのヒヤリングを行った。事前の質問事項に回答する形で、鵜飼センター代表、長沼自治協議会の西澤さん、長野市環境保全温暖化対策課(当時)の桑原義敬課長補佐などから報告を受けた。布目市議の司会、西澤さんからは、「公助」にすべて頼るのは無理で、「自助」で災害廃棄物の勝手仮置き場設置の経緯と苦労が報告された。災害発生直後から長沼地区住民自治協議会は災害対策本部を設置し、連日、区長会を開き、被災後6日目に災害ゴミの勝手仮置き場として赤沼公園に決定。赤沼区副区長で主導メンバーの西澤さんは、「当時はアスベスト建材のことなど頭にはなかった」と吐露した。「分別の発想はどこから」飯田さんの質問に、「全戸配布した9種類の分別を!の市のチラシを参考に、最初は6分類で行った」と答えた。

長野市の桑原さんは、環境省・県の石綿飛散防止マニュアルに基づき、①吹付アスベスト建造物の被災状況の確認②災害廃棄物仮置き場でのモニタリング調査③解体事業者などへの注意喚起④ボランティア及び被災者への情報提供⑤解体現場への立入調査の実施について報告した。吹付アスベストについて、台帳掲載の被災地8軒の現地調査では、著しい損壊がなく露出なし。「8軒だけだったのですか」と永倉冬史さん(中皮腫・じん肺・アスベストセンター)の質問に「台帳にない1軒が石綿除去業者から報告があり、露出が確認されなかった」と桑原さんは応答した。被災家屋周辺、災害廃棄物仮置き場などの環境モニタリング調査(石綿気中濃度)では、全地点で6回測定したがいずれも、1本/L未満で安全を確認した。丁寧かつ力が入った各説明に、「明日のシンポジウムの予行練習のようだね」の声に笑いがもれた。

4.シンポジウム「令和元年長野市台風19号災害におけるアスベスト対策に学ぶ」

翌3日、午後から改装された長沼体育館でシンポジウムが開かれた。第1部の①~③は前日のヒヤリングと重複するので内容は割愛する。オンラインを含めて約60人が参加。教訓や課題を出し合い、事前対策の必要性を再確認した。

 第1部 報告・シンポジウム

①鵜飼照喜さん(長野県アスベスト対策センター代表)「台風19号災害における対策センターの取り組み・長野市との交渉」。主に、長野市に対し、災害後の建物解体、住民&ボランティアに対するアスベスト対策、記録保存システムなどの申し入れと現場の視察などの報告があった。②桑原義敬さん(長野市環境保全温暖化対策課課長補佐)「台風19号災害に関するアスベスト対策の取り組み及び災害廃棄物の収集・仮置き場の問題点と公費解体等における課題」と題して報告。最後に「平常時における準備」が大切であると締めくくった。③西澤清文さん(長沼地区住民自治協議会会長)「被災者から見た災害廃棄物処理の課題」④外山尚紀さん(東京労働安全衛生センター)「災害被災地におけるアスベスト対策の課題」として、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、それぞれの石綿対策と問題点を紹介し、課題を提起した。

第2部 体験ワークショップ 

①防じんマスクのつけ方 ②簡易顕微鏡(榊原洋子愛知教育大准教授考案)によるアスベスト建材の見分け方について実施した。

5.感想

(1)地元自治協議会の対策で震災廃棄物の勝手仮置き場の設置、管理は、他の被災地では見られない取り組みで感銘した。環境教育に取り組む元高校教員の西澤さんのリーダーシップによるところが大きい。(2)地元自治協議会、アスベスト対策センター、自治体と三者が対立ではなく協力関係にあること、市議の活動も素晴らしい。(3)プロジェクトとして、永倉さんが水害2カ月後の12月23日に現地を視察して災害アスベスト対策の助言が長野市環境部の対策にも生かされていると伺いうれしく思った。